本能〜椎名林檎 罪
椎名林檎は終わった、などとは思っていなかったよ。
ただ、見てしまったんだ。
拡声器を投げ捨てるかわりに、やさしく床に置くあなたを。
カメラのレンズにぶち当ててほしかったわけじゃない。
ずっと口につけていてほしかったわけでもない。
かといって、ナース服を破いて、歌わずに大股で去ってほしかったのでもない。
なにかが違う。
あなた自身に先がけて、おれはあなたから遠ざかった。
「勝訴」も「精液」も、ちゃんと聴かなかった。
つまり、おれが見たかったのは、敵意と軽蔑で光る瞳。
それは、ないものねだり。
必死のひとつのいのちを目の前にしても、なお。
https://www.youtube.com/watch?v=IPReYQkPkRY
おれのようなリスナーは、あなたのファンとはいえなかった。
あなたの音楽を聴く必要はあっても、その資格はなかった。
年月が経ち。
あなたを見守る幸運が多くの形をなし。
あなたは変わらずひとびとに絵の具をふりかける。
この身に染み込むその色が、かすかにたてる音を感じながら、いつしか自分がゆるされたことに期待している。
もとより、そこにはなにもなかったのかもしれない。
ゆるそうとしなかったのは、自ら。
この先もずっと。